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名古屋高等裁判所 昭和39年(ネ)63号 判決

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、原判決中控訴人らに関する部分を左のとおり変更する。

三、控訴人吉野東市、同川口仲三郎、同村上忠七、同伊藤清正、同古川武男、同高坂秋三は各自被控訴人に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和二四年一一月五日以降右完済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

四、控訴人大口淳一、同大口昌男、同大口泰広、同大口秀夫、同小林節子、同大口佐紀子、同大口鎮子、同大口欽司、同大嶋和子は各自被控訴人に対し金一四八、一四八円およびこれに対する昭和二四年一一月五日以降右完済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

五、控訴人大嶋裕子、同神藤きよは各自被控訴人に対し金六六六、六六六円およびこれに対する昭和二四年一一月五日以降右完済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

六、控訴人神藤虎一、同神藤寛、同神藤元夫は各自被控訴人に対し金四四四、四四四円およびこれに対する昭和二四年一一月五日以降右完済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

七、控訴申立以後の訴訟費用中控訴人らと被控訴人間に生じた分は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら(但し、控訴人神藤きよ、同神藤虎一、同神藤寛、同神藤元夫を除く)代理人および控訴人神藤きよ、同神藤虎一、同神藤寛、同神藤元夫は、いずれも「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟総費用は被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、当審において請求の趣旨を主文第三項ないし第六項のように訂正した。

(被控訴代理人の主張)

被控訴代理人は、請求の原因として次のように述べた。

訴外食料品配給公団(以下単に公団と呼ぶ)は、食料品配給公団法(昭和二四年法律第一七一号により昭和二五年四月一日をもつて廃止)に基づいて設立された法人であるが、昭和二五年四月一日同法第三一条により解散し、その後清算手続を終了して消滅したが、被控訴人国は、右公団の消滅に際し公団よりその有する残余財産の一切を承継したものであり、訴外中部罐詰株式会社(第一審共同被告、以下単に中部罐詰と呼ぶ)は、控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、亡神藤嘉一の八名(以下控訴人ら八名と呼ぶ)が発起人となり、昭和二四年一一月五日成立された資本金二〇〇万円、罐詰製造用原料資材の売買および委託売買その他一切の食料品並びに調味料の売買、食料品の輸出入などを目的とする株式会社である。

第一、被控訴人は中部罐詰に対し左のとおりの債権を有する。

(一)  公団は中部罐詰に対し罐詰を代金は即時払の約旨で次のように売渡した。

1、昭和二四年一一月五日売渡(イ)家庭用マーマレード百函単価三、一〇一円金額三一〇、一〇〇円、(ロ)鉄鋼労務者用鮪味付ほか八函三六罐(但し、同日売渡数量一〇函三六罐のうち返品二函を除いたもの)単価四八〇〇円金額三三、〇二五円四銭小計三四三、一二五円四銭

2、同年一二月一三日売渡鉄鋼労務者用マーマレード三〇函単価三、一〇一円金額九三、〇三〇円

3、同年一二月二八日売渡福神漬一函金額三、六三〇円

4、同年一二月三一日売渡(イ)苺ジヤム単価三、二二九円のもの一函、単価三、一〇一円のもの八函金額二四、八〇八円小計二八、〇三七円(ロ)魚肉団子一〇函うち五函は単価二、〇五六円、うち五函は単価一、五一七円小計一七、八六五円(イ)(ロ)合計金四五、九〇二円

5、同二五年一月一六日売渡鯨味付一、〇六一函一二罐(但し一函は四八罐、同日売渡数量一、四九九函四五罐のうち返品四三八函三三罐を除いたもの)単価二、九八六円金額三、一六八、八九二円四〇銭

6、同年一月三一日売渡松茸水煮二罐単価三、四七〇円金額六、九四〇円

以上1ないし6の代金合計三、六六一、五一九円四四銭

(二)  中部罐詰発起人代表者たる控訴人吉野東市は昭和二四年一〇月三一日公団より未だ成立されていない中部罐詰の名義をもつて、家庭配給用海苔佃煮一五函単価三、一五八円金額五九、三七〇円を買受けたところ、中部罐詰は、その成立した同年一一月五日以後において、吉野東市より右現品を引取り、もつて右海苔佃煮売買により生じた一切の権利義務を承継した。

(三)  控訴人吉野は、訴外中部食品株式会社(以下単に中部食品と呼ぶ)の名義をもつて、公団より、別紙第一表記載のとおり代金合計八、七七一、八三六円一五銭相当の罐詰を買受け、そのうち返品した別紙第二表記載の代金五、五三一、五六〇円六銭を控除した三、二四〇、二七六円九銭相当の罐詰を中部罐詰に引渡し販売させたのであるが、公団は、そのうち昭和二四年一〇月三一日五〇万円および七〇万円、同年一二月二七日並びに同月三一日各一四一、一〇〇円合計一、四八二、二〇〇円の代金支払を受け、昭和二五年三月三一日現在においては、右売掛代金残額一、七五八、〇七六円九銭の債権を有することとなったのであるが、右のように該物品は、中部罐詰が引渡を受け販売をなしたので、中部罐詰と協議のうえ、その承諾を得て右の買受人を中部食品から中部罐詰に振替えたのである。すなわち中部罐詰は、公団に対し右中部食品名義の売買契約により生じた一切の権利義務を承継することを承諾した。ところで公団は、同日中部罐詰より右売渡物品のうちたらばかにフレーク七函五八罐単価一一、七八九円金額八九、六四五円四〇銭、みかん一一六函単価一、二五七円金額一四五、八一二円計二三五、四五七円四〇銭の返品を受け、その後別紙第二表の返品のうち昭和二五年三月二三日の分につき三万円の誤算を発見し、これを差引くこととなつたので、結局公団の有する右売掛代金残額債権は一、四九二、六一八円六九銭となつた。

以上のとおり、公団は中部罐詰に対し(一)ないし(三)の合計五、二一三、五〇八円一三銭の売掛代金債権を有していたところ、中部罐詰より昭和二四年一二月三一日から同二六年二月六日までの間に別紙第三表のとおり合計二、九〇一、一四三円三三銭の支払を受けたが、差引き二、三一二、三六四円八〇銭の支払を受けていない。被控訴人国は、前記のように右中部罐詰に対する公団の売掛代金残額債権を承継した。

第二、中部罐詰は、その全部払込み済みと称する資本金二〇〇万円については、控訴人吉野東市個人名義で、訴外株式会社第一銀行名古屋支店より一時借受けた金二〇〇万円をもつてこれに充て、あたかも二〇〇万円の株金全額の払込みがあつたように仮装したうえ、会社設立登記を経由したものであつて、現実には右資本金二〇〇万円についての株金の払込みを全く受けていない。右二〇〇万円は所謂「見せ金」によるものである。すなわち、

(一)  会社成立後借入金を返済するまでの期間。会社の成立年月日は設立登記を経由した昭和二四年一一月五日であり、借入金を返済した年月日は同年同月二一日であるからその間僅かに一五日間である。

(二)  払戻金が会社資金として運用された事実は全く認められない。

(三)  中部罐詰が成立当時に有していた資産は、公団より借掛金によつて仕入れた商品在庫のみであつたが、一方ではその在庫単価を上廻る債務を負つており、従つて全くの無資産であつた。また資本金となるべき株式払込金は第一銀行名古屋支店から借受けて、帳簿上の操作のみによつて株式払込金に振り替えられたものである。また設立後現物出資として会社に払込んだ財産は全くなく、不動産、預金等何も残らなかつたのである。従つて銀行から借受けた二〇〇万円は銀行帳簿の操作のみによつて株式払込金に充てられたものを、そのまま返済したものであつて返済資金は資本金そのものであり、右返済の結果会社は全くの無資産となつたのである。

(四)  控訴人吉野は他の発起人より設立手続の総てを任されていたこと、払込取扱銀行自体から借入をして、これを自己の引受けた株式はもとより他の者の引き受けた株式をも含めた全株式の払込金として一括払込(帳簿上の操作のみであるが)をしていること。

以上(一)ないし(四)の事実を総合的に観察すると、株式の払込みをもつて実質的には会社の資金とするの意図なく単に払込みの外形を装つたものに過ぎないものである。

従つて前記控訴人ら八名は、中部罐詰の発起人として、中部罐詰に対して連帯して右未払込株式二〇〇万円およびこれに対する同株金払込期日の翌日である昭和二四年一一月五日より右払込み済みに至るまで、中部罐詰定款所定の日歩四銭の割合による損害金を支払うべき義務があるところ、中部罐詰は営業不振で債務超過の状態にあり、被控訴人に対する第一記載の債務を弁済する資力がないにもかかわらず、右控訴人ら八名に株金等の払込み請求をなさないから、被控訴人は、前記中部罐詰に対する債権を保全するため代位して、控訴人ら八名に対し、右未払込み株金二〇〇万円およびこれに対する昭和二四年一一月五日より右支払済みに至るまで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

なお、大口源兵衛は昭和三三年一月二一日死亡し、左記の者が相続した。

亡  大口源兵衛   長男   大口淳一

同          二男   大口昌男

同          三男   大口泰広

同          四男   大口秀夫

同          長女   小林節子

同          二女   大口佐紀子

同          三女   大口鎮子

同          五男   大口欽司

同          長女   大嶋和子

同          妻    大嶋裕子

また、控訴人神藤嘉一は昭和三三年一一月二四日死亡し、左記の者が相続した。

亡  神藤嘉一    妻    神藤きよ

同          長男   神藤虎一

同          二男   神藤寛

同          三男   神藤元夫

よつて、右相続人らは被相続人の義務を相続分の割合に応じて分割した限度において承継し、各相続人は共同相続人以外の本来の連帯債務者と連帯して支払をなす義務がある。

第三、被控訴代理人は、原審当時前記第一の(三)のうちの三万円の誤算が発見できなかつたため、原審においてはその額を差引かなかつた結果、第一の(一)ないし(三)の売掛代金残額合計を前記主張と異る五、二四三、五〇八円一三銭(原判決がこの額を五、二三八、五〇八円一三銭としているのも誤算である)と陳述し、そのため内入代金額を一万円多額に計上し、また値引二万円の事実がないのに、誤つてこの事実ありと主張した(但し、結局訴外会社に対する請求額は同一である。)。また第一の(二)について、当審(差戻し前)の昭和三一年八月一四日以前の口頭弁論期日までは、控訴人吉野が中部罐詰の発起人代表としてなした右第一の(二)の売買を、あたかも控訴人吉野が個人としてなしたように主張した。しかし右各主張は、いずれも事実に反し錯誤に基づくものであるからこれを取り消す。

第四、控訴人らの主張に対し次のように述べた。

一、控訴人らの主張事実(但し、弁済の抗弁の点については、前記被控訴人の主張に反する部分のみ)は、すべて否認する。控訴人吉野の自白の撤回には異議をとどめる。

二、被控訴人主張の前記第一の各売買契約について、仮りに中部罐詰が真実の買主ではなかつたとしても、中部罐詰は右各契約並びにその買受品の処分につき、控訴人吉野および中部食品をして中部罐詰の商号を使用させてこれをなさしめたものであり、このため公団は右売買契約(特に第一の(二)、(三))の買受人を中部罐詰なりと誤認したのである。従つて中部罐詰は商法第二三条により右売買契約より生ずる債務につき責を免れない。

三、中部罐詰が前記第一の(二)、(三)の売買契約により生じた一切の権利義務を承継したことは、中部罐詰の代表取締役たる控訴人吉野の債務を引受けたのではないから、商法第二六五条にいわゆる取引に該当せず、従つて右承継についてはその当時における監査役の承認を必要としなかつたものである。しかし仮りに、右承継が中部罐詰代表取締役たる控訴人吉野のなした右売買契約上の債務の承継であり、これが同条にいわゆる取引に該当するものとしても、右の承継については、昭和二五年四月二八日における取締役会において監査役の承認を得ているので、中部罐詰は右承継の効力を否定することはできない。

四、控訴人は、仮定抗弁として、株式全部の払込みのない会社の設立は当然無効であるから、中部罐詰は何らの債務を負わないし、発起人に商法第一九二条の資本充実責任はないと主張する。しかし会社の設立無効は当然無効ではなくて、独立の訴によつてのみ設立無効を主張し得るにすぎず、単なる抗弁によつてはそれを主張しえない。しかして中部罐詰に対して右の独立の訴に基づく設立無効の判決は存在しない。のみならず、商法第一九二条に規定せられる発起人の資本充実責任は設立無効になつても免れえないものであり、またこの資本充実責任は発起人に対し設立無効の判決が確定したか否かを問わず課せられ、その責任を免れしめるものではない。

六、仮りに、控訴人川口、同村上、亡大口源兵衛、控訴人伊藤、亡神藤嘉一に対し、独占禁止法に違反するものとして、中部罐詰の発起としてその未払込株金についての払込み義務を負担させることができないとしても、被控訴人は右控訴人らに対し、商法第一九八条に従い、前記発起人らに対する損害金請求と同一の未払込株金二〇〇万円につき、中部罐詰に代位してその支払を求めるものである。

(控訴人らの主張)

控訴人ら代理人並びに控訴人神藤きよ、同神藤虎一、同神藤寛、同神藤元夫は答弁並びに抗弁としていずれも次のように述べた。

一、被控訴人主張の請求原因事実のうち、冒頭記載の中部罐詰が昭和二四年一一月五日成立したとの事実、第一の(一)ないし(三)の各事実、および第二のうち中部罐詰がその資本金二〇〇万円について株金全額の払込みがないのにこれある如く仮装したとの事実は否認し、その余の事実(相続関係を除く)は認める。なお、後記のように第一の二の売買契約の当事者は、吉野東市個人であるから、この点についての被控訴人の自白の撤回、並びに本件売掛代金残額につき二万円の値引をした旨の被控訴人の自白の撤回については、異議がある。

二、被控訴人主張の第一の(一)ないし(三)の各売買における買主は、中部罐詰ではなく、中部食品かまたは控訴人吉野個人である。すなわち公団は、当時登録業者に対してのみ配給手続によつて商品の販売をなしていたものであるから、登録業者でない中部罐詰との間に取引がなされる筈がない。従つて、右第一の売買契約における買主は、たとい中部罐詰の名義が用いられていても真実は中部食品であり、また右第一の(二)、(三)における買主は、被控訴人の主張自体より明らかなように(中部罐詰設立前の分に関する分は特にそうである)中部罐詰ではない。なお仮りに、右各売買契約により生じた権利義務を中部罐詰が承継したとするも、右は控訴人吉野が中部罐詰の代表者として、同人の個人の債務を中部罐詰に引受けさせたものであつて、いわゆる自己契約または双方代理行為であり監査役の承認を得ていない無効のものであるから、中部罐詰に対し右債務引受の効果を負わせることはできない。

三、仮りに中部罐詰が被控訴人主張の前記第一の(一)の売買契約の買主であつたとしても、公団と中部罐詰とは、昭和二五年二月二五日右売買契約における中部罐詰の未払代金を、同日現在において一、八一四、〇六六円とする旨の合意が成立した。そして中部罐詰は、同日以降別紙第四表記載のとおり合計一、九〇五、一四三円三三銭を、右債務について弁済したかち、もはや公団およびその承継人たる被控訴人に対し何らの債務を負担していない。

四、なお控訴人吉野は、原審において、被控訴人主張の請求原因事実のうち第一の(三)の売買および中部罐詰が同売買契約により生じた権利義務を承継したとの点を除きその余の事実を自白したが、真実は、前記答弁のとおりであり、右自白は錯誤に基づくものであるから、当審においてこれを取り消す。

五、そもそも中部罐詰は、昭和二四年一一月五日設立登記を経由はしているが、その実体は、重要なる設立手続が履践されていないから、未だ成立に至らず不存在というべきである。すなわち、控訴人吉野において控訴人川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、亡神藤嘉一(以下控訴人川口ら七名と呼ぶ)が中部罐詰の定款および株式引受証に押印してあつたのを利用し、右川口ら七名の同意を得ないで株式引受数を記入し、創立総会の招集通知もせず同総会の開催もしていないのに、あたかも創立総会を開催して創立事項の報告をなしたうえ、取締役、監査役の選任がなされたような文書を作成し、右控訴人川口ら七名の知らない間に控訴会社設立登記手続をなしたものである。従つて、中部罐詰は、その設立が無効というよりも不成立というべきであり、中部罐詰の成立を前提とする被控訴人の本訴請求は理由がない。

六、株式払込みの欠缺が著しいときは設立は無効である。商法第一九二条の資本充実責任が認められている根拠は、わずかな引受けまたは払込みの欠缺によって会社の設立無効を来たすのを防止するためである。従つて払込みの欠缺が設立に際し発行する株式総数に比して著しいときは、設立を無効とするほかなく、商法第一九二条の適用の余地がない。被控訴人の主張自体から中部罐詰は株式全部の払込みがなかつたというのであるから右会社の設立は無効であり、右会社は何ら債務を負わず、また控訴人らに何らの責任も生じない(控訴人神藤ら四名を除く)。

七、仮りに中部罐詰が適法に成立したとしても、控訴人川口ら七名が保証人となり、控訴人吉野が前記訴外銀行より借入れた二〇〇万円をもつて、中部罐詰の全株式の払込金に充当しているので、中部罐詰の未払込株式は存しない。たといその後控訴人吉野において、中部罐詰の資本金二〇〇万円をもつて同銀行からの借入金の弁済に充てたからといつて、既に全株金が払込済であることには何らの消長を来たさないというべく、中部罐詰の発起人である控訴人吉野ら八名が未払込株金についての責を負うことはあり得ない。

八、払込済の会社として設立登記を経由してからは、払込金は訴外第一銀行の当座預金としてあり、いつでも支払に充てられるようになつていたものであつて、それを代表取締役である控訴人吉野が引出し、会社の金を自己の借入金に返済したとしてもその余の控訴人らには何らの関係がない。従つて(1)会社成立後控訴人吉野が自己個人の借入金の返済のために会社の金を横領した本件にあつては、右個人の借入金の返済の期間の長短に拘らず、払込みは有効であつて、少くとも吉野を除く控訴人らには責任がないし、(2)銀行からの払戻金が会社資金として運用された事実の有無に拘らず払込みは有効であり、(3)控訴人吉野が会社の金を自己の借入金の返済として一時流用したとしても、吉野には他にも財産があり、会社の資金関係には何ら影響がないのであるから払込みは有効である(この項は控訴人神藤ら四名を除く)。

九、仮りに控訴人らにおいて右未払込株金の払込義務があるとしても、控訴人川口、同伊藤、同村上、亡大口源兵衛、亡神藤嘉一の中部罐詰の株式取得は私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律に違反する無効のものである。すなわち、中部罐詰の営業目的は罐壜詰製造用原料資材の売買および委託売買その他一切の食料品並びに調味料の売買等であるところ、

(一)  控訴人川口は、中部罐詰設立前より引きつづき訴外愛知トマト株式会社の代表取締役であって、同会社は罐詰類の製造販売等をその営業目的とし

(二)  控訴人村上は、中部罐詰設立前より引きつづき訴外株式会社丸上の代表取締役であり、亡神藤嘉一は同会社の取締役であつて、同会社は食料品罐壜詰製造販売等を営業目的とし

(三)  控訴人伊藤は、中部罐詰設立前より引きつづき訴外天狗罐詰株式会社の代表取締役であつて、同会社の営業目的は食料品の罐壜詰の製造販売を業とし

(四)  亡大口源兵衛は、中部罐詰設立前より訴外大口物産株式会社の代表取締役であり、同会社は食料品の罐壜詰類の販売等を営業目的とし

ていることにより、控訴人川口、同伊藤、同村上、亡神藤嘉一、亡大口源兵衛は中部罐詰と競争関係にある前記(一)、(二)、(三)、(四)記載の各会社の役員として、中部罐詰の株式を取得しまたは所有することを、強行法規たる私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律が禁止しているにもかかわらず、右控訴人らに対し中部罐詰の発起人として未払込株金についての払込義務を負担させることは、結果において中部罐詰の株式を取得させ右強行法規違反の結果を招来することとなるのであつて、このような結果を招来する被控訴人の右控訴人らに対する請求は不当であつて棄却を免れない。

(立証関係)(省略)

理由

第一  被控訴人の中部罐詰に対する債権(被保全債権)について。

一、控訴人らは、中部罐詰の成立そのものを争つているので、まずこの点を検討する。

中部罐詰は、控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、および同神藤嘉一の八名が発起人となり、資本金二〇〇万円罐詰製造用原料資材の売買および委託売買その他食料品並びに調味料の売買、食料品の輸出入等を目的とする株式会社として、昭和二四年一一月五日設立登記を経由していることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の六、七、一七、一八、および第五号証(控訴人吉野を除く控訴人らの関係において、差戻前控訴審における控訴人吉野東市、の供述によりその成立を認める)、原審における控訴人吉野の供述により真正に成立したと認められる甲第一号証の二ないし四、差戻前控訴審および当審における証人箕輪吉人の証言、原審および差戻前控訴審における控訴人吉野東市、同川口仲三郎、差戻前控訴審における控訴人伊藤清正(第二回)の各供述を総合すると、中部罐詰は、もともと控訴人吉野が主導的立場で設立を企図したものであり、控訴人川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、および同神藤嘉一は、控訴人吉野より中部罐詰設立の相談を受けてこれに賛助し、その発起人となることを承諾し、定款に各押印するとともに、中部罐詰の設立手続等一切を同人に委任したうえ創立総会開催のための期間短縮の決議をなしたこと、中部罐詰の創立総会は名古屋市内の明治製菓二階で開催され、控訴人吉野ら発起人が同総会に出席していること、控訴人吉野は、その後右委任に基づいて株式の引受その他会社設立に必要な手続を進めたうえ、前記日時に中部罐詰設立登記手続をなしたことが認められる。右認定に反する証人伊藤研、同中野支郎の原審における各証言、控訴人神藤(亡嘉一)の原審における供述並びに控訴人古川、同高坂の差戻前控訴審における各供述はいずれも措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、中部罐詰は昭和二四年一一月五日その設立登記の経由とともに成立したものと認めざるをえない。

二、被控訴人の中部罐詰に対する債権の存否について。

(1)  本件公団が食料品配給公団法に基づいて設立された法人であるところ、昭和二五年四月一日同法第三一条により解散したことは当事者間に争いがなく、同二六年三月三一日その清算手続を結了し、その旨の登記手続を経たことは控訴人らの争わないところであり残余財産はすべて被控訴人をして承継せしめたものであることは、昭和二五年政令第四六号食料品配給公団解散令第一三条の規定により明らかである。しかして、被控訴人主張の請求の原因第一の(二)の売買契約における買受人に関する点を除くその余の事実については、控訴人吉野が原審において自白したところである。控訴人吉野は当審に至り右自白を撤回し、右自白にかかる各事実を否認するけれども、控訴人ら提出の各証拠によつても、右自白の内容が真実に反し且つ自白が錯誤によりなされたと認めるに足りないから、右自白の撤回は許容することができない。しかして、原審における控訴人吉野の供述により真正に成立したと認められる甲第二号証、原審および差戻前控訴審における証人香取勇、同林敏通の各証言によれば、被控訴人主張の請求原因第一の(二)の売買契約における買受人は、訴外会社発起人代表である控訴人吉野と認められる。右認定に反する原審における控訴人吉野の供述は措信しがたい(従つて、この点につき被控訴人のなした右の買受人を控訴人吉野なりとする自白は、錯誤に基づいてなされたものと認められるから、右自白の撤回はこれを許容すべきである)。控訴人吉野を除く他の控訴人らの関係においては、成立に争のない甲第二号証、原審における証人香取勇、同須藤五郎の各証言および弁論の全趣旨により請求原因第一の(一)並びに(二)の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  成立に争いのない甲第三号証、第四号証(被控訴人吉野は当審において認否を訂正したが、原審の認否が真実に反し、錯誤にもとづくものと認めるべき証拠がないので、認否の訂正を許さない)、第六号証、第一一号証、第二五号証ないし第二七号証、原審における控訴人吉野の供述により真正に成立したものと認められる甲第二号証(控訴人吉野を除く控訴人らと被控訴人間においては成立に争いがない)、原審における証人梅原守士、同須藤五郎、原審および差戻前控訴審における証人香取勇、同林敏通の各証言、原審および差戻前控訴審における控訴人吉野の供述を総合すると、控訴人吉野はかねてより本件公団の中部支局長と同支局罐詰課長の職にあつたところ、同人は公団の登録配給業者であつた中部食品の代表取締役である梅原守士と懇意の間柄にあつたが、昭和二四年春頃より我が国における罐詰類等に対する統制撤廃の気運が高まり、公団の解散も間近いことが予期されたことから、右梅原と共に罐詰統制撤廃後は控訴人吉野の公団における右の地位を利用し、中部食品の名義をもつて公団手持罐詰類の払下げを受けてその販売をなし、互いに利益を得ようと相談したうえ、同年六月末頃公団を退職し、当時の公団中部支局の事務所二階に中部食品罐詰部を設け、自らその責任者となり、以来同部はいわゆる独立採算制の形式をとり、公団より払下げを受けた罐詰類の販売は控訴人吉野において主宰していたところ、同人はいくばくもなく梅原との間に確執を生じた結果、ここに中部食品とは別個に中部罐詰を設立することとなり、同年一一月五日同会社を設立し、自らその代表取締役となつたうえ、右中部食品罐詰部の権利義務一切をその儘承継したこと、公団は同年七月三〇日より昭和二五年二月一七日までの間、右のように控訴人吉野が主宰する中部食品罐詰部に対し代金八、七七一、八三六円一五銭相当の罐壜詰類を売却し、そのうち代金五、五三一、五六〇円六銭相当の返品と代金一、四八二、二〇〇円の内入弁済を受けたところ、同年四月一日その解散に伴い、同年三月三一日現在における右売渡物品の売掛残債権(その額は後日清算の結果一、七五八、〇七六円九銭と確定されたものである)を調査した結果、右売渡分については、前記のようにその真実の買主と目すべきものは中部罐詰であることが判明したので、同月一三日中部罐詰の代表取締役である控訴人吉野と協議の末、その承諾を得て公団解散の前日である同年三月三一日現在の右未払代金の債務者を中部罐詰となすに至つたものであること、しかして、その後における返品分と従前の返品分につき誤算のあつた分を精算し、結局公団の中部罐詰に対する右の売掛残債権は一、四九二、六一八円六〇銭となつたことが認められる。右認定に反する原審および差戻前控訴審における控訴人吉野の供述は、前掲各証拠に照らし措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない(なお、成立に争いのない甲第三号証、同第四号証の二における公団債権額の記載は、いずれも当該書面記載の年月日当時における公団の中部罐詰に対する全債権額を表示したものと認められるところ、右各記載の年月日前後において、以上のように返品がなされており、また後記認定のように内入代金の弁済もあるのであつて、右各記載の金額と前記被控訴人主張の請求原因第一の(一)ないし(三)の未払代金債権の合計額とは、正確に一致しないのは当然であるから、右各証拠は、何ら右認定の妨げとはならない)。

三、進んで控訴人らの抗弁につき検討する。

(1)  控訴人らは、中部罐詰が被控訴人主張の請求原因第一の(二)、(三)の売買契約により生じた代金支払債務を承継したのは、中部罐詰の代表取締役として、訴外会社に右債務を引受けさせたものというべく、右債務については、控訴人吉野個人もその支払責任を免れ得ないものであるから、中部罐詰代表取締役としてなした債務引受は、いわゆる自己契約であつて、監査役の承認のない限り中部罐詰に対し効力を生じない旨抗争する。中部罐詰の右各売買契約により生じた権利義務の承継は、結局承継当時における公団に対する残代金支払債務の引受のみを目的としてなされたものであることは、被控訴人の本訴請求原因自体に照らし明らかというべきである。ところで控訴人吉野個人も、右各契約の締結に当り中部罐詰発起人代表者または中部食品罐詰部主宰者として関与していること前説示のとおりであつて、もし中部罐詰または中部食品が右売買代金の支払を拒否した場合は、同人においても右代金の支払義務あること勿論というべきである。さて、商法第二六五条(昭和二五年法律一六七号による改正前のもの)にいわゆる取引とは、会社と取締役との間の利害関係が相反し、そのため会社が不利益を蒙むるような事項を指すものと解すべく、そうすると前記債務引受行為は、同条にいわゆる取引に該当するものというべく、これには監査役の承認を必要とするものと解する。ところで、成立に争のない甲第二三号証の一、二、原審における控訴人吉野の供述により真正に成立したものと認められる甲第五号証、第七号証ないし第一〇号証(いずれも控訴人吉野においては成立を認めている)、差戻前控訴審における証人諏訪部孝の証言により真正に成立したものと認められる甲第一五号証ないし第二二号証(第二〇号証、第二一号証はいずれも一、二、控訴人吉野の関係では第二一号証の一、二について成立に争いなく、他の控訴人らの関係では第一六号証、第二〇号証の一、二、第二二号証について成立に争いがない)、差戻前控訴審における証人諏訪部孝、同加藤義雄の各証言、原審および差戻前控訴審における控訴人吉野、同伊藤、原審における控訴人神藤(亡嘉一)の各供述を総合すると、中部罐詰は昭和二五年四月二八日の取締役会において右各債務引受行為を承認していること、また、その後公団との間に右未払代金等の支払につき数次の折衝が行われた際、中部罐詰の関係者からは何ら右債務引受についての異議は述べられず、ただ発起人個人の責任追求の点について異議が述べられたに止まることが認められるから、中部罐詰の前記各債務引受については、その監査役の承認があつたものと推認するを相当とする。この認定に反する差戻前控訴審における証人笹原元吉の証言(第一、二回)、差戻前控訴審における控訴人大口(亡源兵衛)、同村上、同川口の各供述はたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

よつて、以上の点に関する控訴人らの抗弁は採用しがたい。

(2)  弁済の抗弁について検討する。

控訴人ら主張の中部罐詰の弁済金中別紙第四表記載の最終分一〇四、〇〇〇円以外は、被控訴人においてこれを認めるところである。しかして右一〇四、〇〇〇円の支払については、控訴人らの何ら立証しないところであるから、これを認定するに由ないものである(なお被控訴人が原審においてなした本件売掛代金残額につき二万円の値引きをした旨の自白は、弁論の全趣旨によりかかる事実がなかつたことを窺いうるので、右自白は被控訴人の錯誤に基づくものとして撤回を許容すべきものと解する。)。

以上説示で明らかなように、被控訴人は中部罐詰に対し売掛残代金二、三一二、三六四円八〇銭(被控訴人主張の請求原因第一の(一)ないし(三)の代金合計五、二一三、五〇八円一三銭から別表第三表の二、九〇一、一四三円三三銭の支払金を控除したもの)およびこれに対する最終内入弁済のあつた日の翌日であること当事者間に争いのない昭和二六年二月七日以降右支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めうる債権を有するものといわなければならない。

第二、そこで控訴人らの中部罐詰に対する株金払込義務の存否について考察する。中部罐詰が適法に成立した会社であることは第一の一で認定したとおりである。

成立に争のない甲第一号証の四ないし一八(控訴人吉野は差戻前控訴審において第一号証の九ないし一五を、他の控訴人らは第一号証の四および一六をいずれも不知と述べているが、原審においてはいずれもその成立を認めていたもので、右原審における認否が真実に反し錯誤に基づくとの証拠がないので、いずれも右認否の訂正を許容しない)、第四号証の一ないし三(控訴人吉野の認否の訂正を許容しないこと前述のとおり)、原審における控訴人吉野の供述によりその成立を認める甲第五号証、第八号証ないし第一〇号証、および乙第三号証、原審における証人梶川有、同大島彦太郎、同原貞雄の各証言、原審における控訴人古川、同川口、同神藤(亡嘉一)、同伊藤、原審並びに当審における控訴人吉野の各供述を総合すると、控訴人吉野は昭和二四年一〇月八日中部罐詰の定款(甲第一号証の五)を作成し、所轄公証人の認証をうけたのであるが、 の株式の募集にあたつては控訴人らの株式引受証に同人らの押印を求め、控訴人吉野は八、〇〇〇株を、その余の控訴人らは各二、〇〇〇株ないし四、〇〇〇株をそれぞれ引受け、残余の株式については資本の総額たる二〇〇万円に充つるまで控訴人ら以外の株主の株式引受があつた旨の書面を作成し、同年一一月五日前記のとおり設立登記を経由したのであるが、その株式の払込にあたつては、株主は勿論その引受株式数も不特定のまま控訴人吉野個人名義で訴外株式会社第一銀行名古屋支店より二〇〇万円を借り受け、これを訴外銀行に中部罐詰の株式払込金として単に名義のみ形式的に振りかえその旨の保管証をうけたこと、現実に各株式引受人より各引受株式数に応ずる株金払込あるいは現物出資はなされていないこと、中部罐詰設立後間もない同年一一月中部罐詰は右払込金を引出したうえこれをもつて訴外銀行に対する控訴人吉野名義の二〇〇万円の借入金を返済し右払戻金が会社資金として運用されたことがないこと、中部罐詰が成立当時に有していた資産は公団より借掛金によつて仕入れた商品在庫のみであつたが、一方ではその在庫を上廻る債務を負つており、全くの無資産であつたこと、訴外銀行から借受けた二〇〇万円は銀行帳簿の操作のみによつて株式払込金にあてられたものを、更に帳簿の操作のみによつて返済したものであつて、返済資金は資本金そのもので、右返済の結果中部罐詰は全くの無資産となつたことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実から明らかなように、中部罐詰の右払込は当初から真実の株式として会社資金を確保する意図がなく、一時的の借入金をもつて単に払込の外形を整えたうえ、株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済したものであつて、実質的には払込があつたものと解することができず、払込としての効力を有しないものである。しかして、株式引受人は会社設立にあたり創立総会開催までにその負担する株金払込義務を現実にかつ完全になされなければならないのに、控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、同神藤嘉一およびその余の株式引受人が未だ現実に払込をしていないこと前認定のとおりであるから、中部罐詰の成立後右未払込株金二〇〇万円およびこれに対する株金払込期日の翌日である昭和二四年一一月五日より右払込済みに至るまで中部罐詰定款所定の日歩四銭の割合による遅延損害金について控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、同神藤嘉一は連帯して中部罐詰に対してその払込義務を負担するものというべきである(なお控訴人らの右払込が有効であることを前提とする各主張がいずれも理由のないことは明らかである)。

なお控訴人ら(控訴人神藤ら四名を除く)は、中部罐詰は株式払込の欠缺が著しいから設立は無効であり、控訴人らには何らの責任もないと主張する。払込の欠缺が著しい場合が設立無効の原因となると解しても、その無効は会社成立の日から二年以内に株主、取締役または監査役が訴をもつてのみ主張することを得るのであつて、単なる抗弁をもつて主張することはできない。しかして、かかる会社設立無効の訴が提起されかつ、この判決が確定したことの主張、立証のない本件においては中部罐詰がたとえ、前記設立無効の原因を包蔵していても事実上無効に設立した会社であると視なければならない。従つて控訴人らの該主張は採用しない。

更に、控訴人川口、同伊藤、同村上、亡神藤嘉一承継人ら、亡大口源兵衛承継人らのいわゆる独占禁止法違反の主張について考えてみる。成立に争いのない乙第五号証ないし第八号証によれば、控訴人川口は中部罐詰設立前より引き続き訴外愛知トマト株式会社の代表取締役であり、控訴人村上および亡神藤嘉一は同じく訴外株式会社丸上のそれぞれ代表取締役および取締役であり、控訴人伊藤は同じく訴外天狗罐詰株式会社の代表取締役であり、亡大口源兵衛は訴外大口物産株式会社の代表取締役であつたのであり、かつ右各訴外会社はすべて食料品、罐詰類製造販売を目的とするものであり、中部罐詰の事業目的と同種類の事業目的を有するものであることを認めることができるのであるが、未だ各会社の営業目的が同種であるというのみをもつて、独占禁止法第二条第二項にいわゆる相互に競争関係にあるとは言いえないのであつて、同条項によれば各事業者が通常の事業活動の範囲内において当該事業活動の施設または態容に重要な変更を加えないで同一の需要者に同種または類似の商品または役務を供給する事実の存在を必要とするところ、この点について右控訴人らは何らの主張も立証もしていないので、独占禁止法第一四条第三項違反の事実を認めるに由なく、右に違反することを前提とする右控訴人らの主張は理由がない。

第三、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三、原審における控訴人吉野の供述によりその成立を認める甲第五号証、第八号証ないし第一〇号証、原審における控訴人吉野の供述を総合すると、中部罐詰は会社設立発起人たる控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、同神藤嘉一に対する未払込株金二〇〇万円について請求権を未だ行使していない事実を認めることができる。従つて、被控訴人は中部罐詰に対する前記認定にかかる売掛残代金債権二、三一二、三六四円八〇銭を保全するため、中部罐詰の控訴人吉野、同川口、同村上、同伊藤、同古川、同高坂、亡大口源兵衛、亡神藤嘉一に対する連帯による未払込株金二〇〇万円の払込請求権を代位行使する権利があるものといわなければならない。

なお、大口源兵衛は昭和三三年一月二一日死亡し、子である控訴人大口淳一、同大口昌男、同大口泰広、同大口秀夫、同小林節子、同大口佐紀子、同大口鎮子、同大口欽司、同大嶋和子および妻である同大嶋裕子が相続し、神藤嘉一は昭和三三年一一月二四日死亡し、妻である控訴人神藤きよ、子である同神藤虎一、同神藤寛、同神藤元夫が相続したことは、以上関係控訴人らの明らかに争わないところであるからこれを自白したものと看做す。そうすると同控訴人らは被相続人の義務を各相続分の割合に応じて分割した限度において承継し、共同相続人以外の本来の連帯債務者と連帯して支払をなすべき義務があること明らかである。

よつて、控訴人らに対する本訴請求はすべて正当として認容すべく、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、なお前記のとおり相続の生じたことにより請求の趣旨が一部訂正されたので、原判決第二項を変更し、訴訟費用について民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

別紙

第一表

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〈省略〉

〈省略〉

第二表

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第三表

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第四表

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